交通事故による鎖骨骨折について

鎖骨骨折

交通事故による鎖骨骨折は、非常に一般的な怪我の一つです。鎖骨は肩と胸をつなぐ骨で、交通事故の衝撃で簡単に折れることがあります。以下に、鎖骨骨折の詳細について説明します。

鎖骨骨折の種類

鎖骨骨折

鎖骨骨折は、骨折の位置によって以下の3つに分類されます。

 

鎖骨骨幹部骨折

 鎖骨の中央部分で発生する骨折で、最も一般的なタイプです。鎖骨骨折の約80%がこの部位で起こります。この部分は、鎖骨の他の部分に比べて細く、外部からの衝撃に弱いため、交通事故などで簡単に折れることがあります。骨幹部骨折は、骨のずれが大きくなることが多く、皮膚の下で骨の変形が目立つことがあります。

 

鎖骨遠位端骨折

 鎖骨の肩側の端に近い部分で発生する骨折です。この部位は肩甲骨と接続しており、靱帯によって支えられています。遠位端骨折は、骨のずれが少ないことが多いですが、靱帯の損傷を伴うことがあり、治療が難しくなることがあります。保存療法が無効な場合が多く、手術が必要になることが一般的です。

 

鎖骨近位端骨折

 鎖骨の胸骨側の端に近い部分で発生する骨折です。この部位は胸骨と接続しており、強靱な胸鎖靱帯によって支えられています。近位端骨折は比較的稀で、骨折の際には胸鎖靱帯が損傷されることが多いです。このため、治療には特別な注意が必要です。

 

症状

鎖骨骨折

鎖骨骨折は以下のような症状が見られます。

 

急性期の症状

 

痛み

鎖骨骨折の最も顕著な症状は痛みです。骨折直後に激しい痛みが生じ、これは骨が折れたことによる直接的な刺激と、周囲の組織や神経が損傷を受けることによるものです。痛みは肩や腕に広がることがあり、特に腕を動かそうとすると痛みが増します。痛みの強さは骨折の程度や位置によって異なりますが、一般的には非常に強い痛みを伴います。

 

腫れと出血

骨折部位では腫れや内出血が見られます。これは骨折によって血管が損傷し、血液が周囲の組織に漏れ出すためです。腫れは骨折直後から数時間以内に現れ、痛みを増強させる要因となります。内出血がひどい場合、皮膚の下に青紫色のあざができることもあります。

 

動かしにくさ

痛みと腫れのために、肩や腕を動かすことが困難になります。特に腕を上げたり、肩を回したりする動作が制限されます。動かそうとすると激しい痛みが生じるため、自然と動きを避けるようになります。

 

骨の変形

鎖骨は皮膚のすぐ下に位置しているため、骨折部位が隆起し、肉眼で確認できることがあります。これを「テント状変形(tenting)」と呼びます。骨がずれている場合、鎖骨の形が明らかに変わって見えることがあります。この変形は、骨が正常な位置に戻るまで続きます。

 

慢性期の症状

 

変形治癒

骨がずれて癒合すると、鎖骨が変形した状態で治癒することがあります。これにより、肩幅が狭くなることがあります。変形治癒は、骨が正しい位置に戻らずに癒合するために起こります。見た目の問題だけでなく、肩の機能にも影響を及ぼすことがあります。

 

肩関節の機能低下

鎖骨が短縮すると、肩関節の可動域が制限され、機能が低下することがあります。鎖骨は肩甲骨と胸骨をつなぐ重要な骨であり、その長さや形状が変わると、肩の動きに影響を与えます。特に腕を上げる動作や、重い物を持ち上げる動作が困難になることがあります。

 

長引く痛み

骨の癒合が遅れる(遷延癒合)場合や、骨が完全に癒合しない(偽関節)場合、長期間にわたって痛みが続くことがあります。遷延癒合や偽関節は、骨が正常に癒合しないために起こります。これにより、持続的な痛みや不快感が生じ、日常生活に支障をきたすことがあります。

 

 

診断

鎖骨骨折

交通事故による鎖骨骨折の診断は、正確な治療計画を立てるために非常に重要です。以下に、診断の各ステップについて詳しく説明します。

 

問診と視診

まず、医師は患者の症状や事故の状況について詳しく聞き取ります。どのような状況で事故が発生したのか、どの部分に痛みがあるのか、痛みの強さや性質などを確認します。また、視診では、鎖骨の変形や腫れ、内出血の有無を確認します。鎖骨骨折の場合、骨の変形が肉眼で確認できることが多いです。

 

触診

次に、医師は鎖骨を触診します。触診により、骨折部位の痛みや不安定感を確認します。骨折が疑われる場合、触診で骨の異常な動きや音(クレピタス)を感じることがあります。

 

画像検査

 

X線検査

鎖骨骨折の診断には、まずX線検査が行われます。X線検査は、骨の状態を確認するための基本的な方法であり、骨折の有無や骨のずれ、骨片の位置を確認するのに役立ちます。通常、前後方向と側面方向の2方向から撮影されます。

 

CT検査

場合によっては、CT検査が行われることもあります。CT検査は、X線検査よりも詳細な画像を提供し、骨折の程度や複雑な骨折の評価に役立ちます。特に、骨片が複数に分かれている場合や、骨折が関節に及んでいる場合に有用です。

 

MRI検査

MRI検査は、骨だけでなく周囲の軟部組織(筋肉、靭帯、神経など)の状態を確認するために使用されることがあります。鎖骨骨折に伴う神経や血管の損傷が疑われる場合に行われることがあります。

 

診断の確定

画像検査の結果を基に、医師は鎖骨骨折の診断を確定します。骨折の位置や程度、骨片のずれの有無などを総合的に評価し、治療方針を決定します。軽度の骨折であれば保存療法(バンド固定など)が選択されますが、骨のずれが大きい場合や複雑な骨折の場合は手術が検討されます。

 

治療計画の立案

診断が確定した後、医師は治療計画を立案します。治療計画には、骨折の固定方法、リハビリテーションの計画、痛みの管理方法などが含まれます。患者の年齢、健康状態、生活習慣なども考慮されます。

 

フォローアップ

治療が開始された後も、定期的にフォローアップが行われます。X線検査やCT検査を用いて、骨の癒合状態を確認し、必要に応じて治療方針を調整します。リハビリテーションの進行状況や痛みの管理も重要なフォローアップ項目です。

 

 

治療法

鎖骨骨折

交通事故による鎖骨骨折の治療は、骨折の程度や位置、患者の年齢や健康状態などに応じて異なります。以下に、治療の各ステップについて詳しく説明します。

 

保存療法

 

バンド固定

軽度の骨折や骨のずれが少ない場合、保存療法が選択されます。保存療法では、鎖骨を安定させるためにバンドやスリングを使用します。これにより、骨が自然に癒合するのを待ちます。通常、数週間から数ヶ月の固定期間が必要です。この間、痛みを和らげるための鎮痛薬や、腫れを抑えるためのアイシングが行われます。

 

三角巾や専用装具

三角巾や専用の装具を使用して肩を固定する方法もあります。これにより、鎖骨が安定し、骨の癒合を促進します。固定期間中は、肩や腕を動かさないように注意が必要です。

 

手術療法

 

プレート固定術

骨のずれが大きい場合や、保存療法が効果を示さない場合、手術が検討されます。プレート固定術では、金属プレートとネジを用いて骨を固定します。手術後は、リハビリテーションが必要となり、肩の機能回復を目指します。

 

ワイヤー固定術

ワイヤー固定術では、鋼線や金属釘を用いて骨を固定します。これにより、骨が正しい位置に戻り、癒合を促進します。手術後は、リハビリテーションが行われ、肩の機能回復を目指します。

 

リハビリテーション

 

初期段階

手術後や保存療法中の初期段階では、肩や腕を動かさないように注意が必要です。痛みや腫れが引いた後、徐々に軽い運動を開始します。リハビリテーションの初期段階では、肩の可動域を回復させるための軽いストレッチや運動が行われます。

 

中期段階

中期段階では、肩の筋力を回復させるための運動が行われます。軽いウェイトを使用した運動や、抵抗バンドを用いた運動が含まれます。これにより、肩の筋力が徐々に回復し、日常生活に必要な動作ができるようになります。

 

後期段階

後期段階では、肩の機能を完全に回復させるための運動が行われます。スポーツや重い物を持ち上げる動作など、日常生活や仕事に必要な動作を再現する運動が含まれます。リハビリテーションの進行状況に応じて、運動の強度や種類が調整されます。

 

治療後のフォローアップ

 

定期検診

治療後も定期的にフォローアップが行われます。X線検査やCT検査を用いて、骨の癒合状態を確認し、必要に応じて治療方針を調整します。リハビリテーションの進行状況や痛みの管理も重要なフォローアップ項目です。

 

長期的な経過

骨が完全に癒合するまでには、数ヶ月から1年程度かかることがあります。治療後も、肩の機能や痛みの状態を定期的にチェックし、必要に応じて追加の治療やリハビリテーションが行われます。

 

 

治癒期間

鎖骨骨折

治癒期間の目安

交通事故による鎖骨骨折の治癒期間は、骨折の程度や治療方法によって異なりますが、一般的には以下のような期間が目安とされています。

保存療法の場合

・全治までの期間: 約2~3ヶ月

 

・痛みの軽減: 骨折部の痛みは1ヶ月程度でかなり軽減し、2ヶ月頃にはほとんど感じなくなることが多い。

 

手術療法の場合

・全治までの期間: 約3~4ヶ月 

 

・痛みの軽減: 手術後も同様に、1ヶ月程度で痛みが軽減し、2~3ヶ月でほとんど感じなくなることが多い。

 

 

後遺症

鎖骨骨折

交通事故による鎖骨骨折の後遺症には、いくつかの種類があります。以下に主な後遺症とその特徴を説明します。

 

変形障害

    • 骨折した鎖骨がきれいにくっつかず、変形が残ることがあります。これは、見た目に影響を与えるだけでなく、肩の動きにも影響を及ぼすことがあります。

 

機能障害

    • 肩関節の可動域が制限されることがあります。これは、鎖骨が肩関節の動きに関与しているためで、骨折の位置や治療方法によっては、肩を自由に動かせなくなることがあります。

 

神経障害

    • 骨折部位の痛みやしびれが残ることがあります。特に、手術でプレートやワイヤーを使用した場合、神経が損傷されることがあり、これが長期間続くことがあります。

 

 

後遺障害等級

鎖骨骨折

交通事故による鎖骨骨折の後遺症等級は、後遺症の種類や程度によって異なります。以下に主な後遺症等級とその内容を説明します。

 

変形障害

  • 12級5号: 鎖骨に著しい変形を残すもの。これは、骨折が治癒した後に骨がずれて癒合し、外見上明らかに変形が認められる場合に該当します。

 

機能障害

  • 8級6号: 一上肢の三大関節(肩関節、肘関節、手関節)のうち一関節の用を廃したもの。これは、関節が全く動かないか、ほとんど動かない状態を指します。

 

  • 10級10号: 一上肢の三大関節のうち一関節の機能に著しい障害を残すもの。関節の可動域が健側の半分以下に制限されている場合などが該当します。

 

  • 12級6号: 一上肢の三大関節のうち一関節の機能に障害を残すもの。関節の可動域が健側の4分の3以下に制限されている場合などが該当します。

 

神経症状

  • 12級13号: 局部に頑固な神経症状を残すもの。これは、骨折部位の痛みやしびれが長期間続く場合に該当します。

 

  • 14級9号: 局部に神経症状を残すもの。痛みやしびれがあるが、12級13号ほどの重症ではない場合に該当します。

 

後遺障害等級認定のポイント

後遺障害等級の認定を受けるためには、症状が交通事故によるものであることを医学的に証明する必要があります。また、症状固定後に残った後遺症が対象となります。

 

 

まとめ

交通事故による鎖骨骨折は、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。しかし、適切な治療とリハビリを受けることで、多くの人が完全な回復を遂げることができます。事故後は、医師の指示に従い、無理をせずにリハビリを続けることが重要です。また、交通事故を防ぐためには、安全運転の意識を高めることが不可欠です。皆さんが安全に過ごせるよう、交通ルールを守り、注意深く運転することを心がけましょう。

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