過失割合と「別冊判例タイムズ38」徹底解説






過失割合と「別冊判例タイムズ38」徹底解説|基準の読み方・使い方・例外主張の実務


過失割合と「別冊判例タイムズ38」徹底解説

交通事故の解決で最も揉めやすい論点のひとつが過失割合です。支払われる賠償額は、原則として「損害額 ×(100% − 自分の過失%)」で計算されるため、たった数%の差が数十万円単位で結論を左右します。本稿では、実務で基準点となる『別冊判例タイムズ38(全訂5版)』の成り立ちと使い方、そして例外主張の切り口まで、現場思考で整理します。

この記事は教育・啓発目的の一般的解説です。具体案件は事実関係・証拠の差で結論が大きく変わります。疑問点は早期に専門家へご相談ください。

なぜ判例タイムズの基準が「重要」なのか

全国で同種事故に同水準の判断を与えるため、裁判所は裁判官の判断を標準化する指針を必要としました。そこで整理されたのが、東京地裁民事第27部の裁判官らを中心に作成された過失相殺率の認定基準で、昭和50年の初版以降、改訂を重ねてきました。現在では数百類型の事故パターンについて、「基本割合」+「修正要素」の枠組みで目安が示されています。

同種事案に同レベルの結論を導くための統一的な物差し――これが実務で重視される理由です。任意交渉でも将来の訴訟見込みを踏まえ、この基準が出発点になります。

基準の骨子|「基本割合」と「修正要素」

判例タイムズは、事故類型ごとに基本割合を示し、具体事情を修正要素として加減します。以下は典型例を抽象化したサンプルです(数値は解説用)。

事故類型(例) 基本割合(例) 代表的な修正要素(加算・減算)
追突(前方直進中の停車・減速車へ) 後車90:前車10 前車の合図不適切/不必要な急ブレーキ(前車+)/後車の前方不注視・過速度(後車+)
出会い頭(同幅員・信号機なし交差点) 直進A50:直進B50 優先道路・一時停止規制・見通し不良・速度超過・夜間灯火・路面状況・児童高齢者等(事情に応じて加減)
右折直進(青信号同士) 右折70:直進30 直進の著しい速度超過(直進+)/右折の確認不足(右折+)/黄色進入・対向妨害等
歩行者横断(横断歩道あり) 車90:歩行者10 高齢・児童配慮/歩行者の急な飛出し(歩+)/夜間・悪天候・速度超過(車+)

ここでの「+」は当該当事者側の過失割合が増える方向の要素を指します。実際の適用は、現場の事実と証拠によりミリ単位で変動します。

証拠で差がつく|事実認定と資料の重要性

同じ類型でも、どの事実が「ある」と認定されるかで結論は大きく変わります。鍵は「いつ・どこで・どう見えたか・どの速度か・どの位置で接触したか」を客観化する証拠の確保です。

  • 実況見分調書・見取り図・現場写真:接触位置・視認地点・停止位置は過失割合の核心。
  • 供述調書:誘導や誤解が混入しやすいので、署名前の精査が必須。
  • ドライブレコーダー映像:速度・進路・灯火の有無など、時間軸で裏づけ。
  • 第三者証言・防犯カメラ:双方のバイアスを打ち消す外部証拠。
  • 医療記録:受傷態様(衝撃方向・強度)から事故態様を推認。

完成後の供述調書は訂正が極めて難しいのが実情。違和感はその場で修正依頼し、控えは弁護士経由で確保しましょう。

賠償額への影響|数字で理解する過失相殺

過失割合は、最終賠償額に直結します。たとえば総損害額が600万円の場合――

自分の過失 計算式 受取見込み(概算)
10% 600万 ×(1 − 0.10) 540万円
20% 600万 ×(1 − 0.20) 480万円
30% 600万 ×(1 − 0.30) 420万円

わずか10%の差が60万円の違い。交渉前に、自事案の類型・基本割合・修正要素を棚卸しする価値は十分にあります。

よくある誤解と落とし穴

「本に書いてある数値=絶対」ではない

基準は目安です。現実の事故は必ずしも「想定条件どおり」ではありません。具体事情に応じて増減します。

「言った/言わない」の争いは不利

言い分だけでは動きません。映像・図面・痕跡などの客観資料で押さえましょう。

「物損で十分」は危険

症状は遅発することがあります。人身切替と医療の受診記録を適切に整備しないと、後で賠償に影響します。

例外主張のロジック|どこを突くか

当事務所(仮想の説明)は、基準を出発点にしつつ、例外・修正を積極的に検討します。典型的な切り口は次のとおりです。

  • 視認可能性の再評価:見通し・遮蔽物・夜間灯火・降雨霧の具体的条件を計量化(照度・視距)。
  • 時間軸の立証:ドラレコのフレーム単位で、進入タイミングや加減速を再現。
  • 優先関係の再構成:規制標識・路面標示・優先道路の物証確認。
  • 速度超過の推認:ブレーキ痕・停止距離・加害車両データ(車載)から逆算。
  • 弱者保護要素:児童・高齢者・自転車・歩行者に対する注意義務の強化を主張。

「修正要素」は加点法的に積み上げるのではなく、因果関連性(事故発生・拡大との結びつき)を丁寧に紐づけることが肝心です。

ケーススタディ(仮例)|右折直進・夜間・小雨

状況:青信号同士。右折車A、直進車B。交差点は見通し良好だが路面は湿潤。Bに軽度の速度超過疑い。接触は交差点中央ややBの進路側。

  1. 基本割合:右折70:直進30(出発点)。
  2. 修正1(B速度超過):B+5〜10の可能性。ただし実測・映像解析が必要。
  3. 修正2(Aの確認不足):A+(点滅黄の見誤り・対向確認の不足が映像で明白なら増加)。
  4. 総合:A75〜80:B25〜20のレンジで攻防。Bの速度立証に成功すれば、A70:B30へ戻す/さらにB35までの調整を探る。

レンジ提示(幅のある提案)で交渉を開始し、証拠の出方でスライドするのが実務的です。

手続の進め方|任意交渉と訴訟の接続

任意交渉では、将来の訴訟見込み(判例タイムズ適用時のレンジ)を見据えて主張立証の骨格を作ります。決裂した場合、訴訟での事実認定が勝負。だからこそ、交渉段階から「証拠起点の言い回し」で文書化しておくことが重要です。

  • 文書・メールは実況見分や供述調書と整合する表現に。
  • 時系列・位置関係は図示して共有(全景→中景→近景)。
  • 録音・映像・医療記録の索引を作成し、証拠目録化。

チェックリスト|過失割合で後悔しないために

  • □ 自分の事案の類型を特定し、基本割合を把握したか。
  • □ 修正要素(速度・視認・規制・灯火・路面・弱者配慮)を網羅したか。
  • 実況見分調書の接触位置・視認地点の記載を確認したか。
  • ドラレコ映像の上書き防止・バックアップを済ませたか。
  • □ 医療記録・診断書と事故態様の整合性を点検したか。
  • □ 任意交渉の文面に証拠参照を織り込み、訴訟移行時に転用できる形にしたか。

FAQ|よくある質問

Q. 判例タイムズにない特殊事情があります。どう扱われますか?

A. 基準は枠組みです。因果関連性が具体的に立証できるなら修正は可能。映像・計測・専門意見書の併用で説得力を高めます。

Q. 交渉段階での主張は、訴訟に不利になりませんか?

A. 感覚的断言は避け、証拠に基づく仮説的表現(「映像からは〜と推認」「痕跡計測により〜が合理的」)を用いましょう。

Q. 自転車・電動キックボードは?

A. 道路交通法上の位置づけ・遵守義務(灯火・通行区分)が評価に影響します。類型の当てはめと修正要素の精査が必要です。

出典・参考(一般情報)

  • 別冊判例タイムズ38(全訂5版):民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(判例タイムズ社)。
    紹介ページ例:Fujisan.co.jp
  • 民法(過失相殺に関する条項など)
  • 道路交通法(優先関係・一時停止・灯火・通行区分 等)
  • 警察庁・各年統計(事故類型・死傷者データの基礎統計)

注:上記は一般的参考情報です。最新改訂・細目の適用は公式資料・専門家解説を確認してください。

過失割合で妥協しないために

「自分の事案はどの類型?」「修正要素は何点ある?」「証拠は十分?」――この3点を押さえるだけで、交渉の見通しは変わります。証拠取りと主張設計を、最初の一手から正しく。

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